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やれる気のミナモト

仕事のスタンスも自分の心にも「素直」が大切である。

寺井 一郎 氏

寺井 一郎

三愛電子工業株式会社
代表取締役

※役職はインタビュー当時のものです。

新卒で就職する際に、大手商社を選んだのはなぜですか?

大学、大学院を通じ3年間ロボットの研究をしていました。朝9時から夜10時まで窓のない部屋に一人こもって研究を続ける毎日。「パソコンがお友達」といった状態でした。
しかし、その反動でしょうか?ある時、興味の対象が、モノからヒトへ変わったのです。「研究をして、モノ作りして、結局は売ることが必要になる。モノを作る側から売る側になりたい。人と接する仕事がしてみたい。」と思ったのです。教授は、反対したけれど。

「メーカーに行けば自社の製品を売ることになる。でも商社ならば、ありとあらゆる製品を扱うことができる・・・」。中でも伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠)の入社案内には、私が憧れていた通信衛星のことが載っていたのが決め手でした。実際には、通信衛星の仕事はできませんでしたが・・・。
今思えば、私の仕事と人生におけるまず一番の転機は、技術を専攻しながらも技術を捨てたことですね。

商社では海外駐在を経験されていますが、もともと英語は得意であったのですか?

いえいえ。入社時に行われた英語の試験では、なんと85人中ビリから2番目(笑)。それなのに入社早々「海外に行きたい!」と志願したんです。もちろん会社の出した答えは「ノー」。
当時は、入社後3ヶ月間にわたり、週3回2時間ずつ会社で英語のレッスンを行ってくれていました。今思えば、恵まれた新人時代ですよね。でも、その3ヶ月間は勉強しましたよ~。海外駐在できるレベルまで英語力を高めました。その結果、ロンドンに2年間、ニューヨークに5年間の駐在を経験できたわけです。
勉強は、大変だとは思っていなかったですね。「好きこそ物の上手なれ」って言うでしょ?たとえ苦手なことでも、苦手だ、嫌いだ、と言わないで「好きなんだ」とまわりにも自分にも宣言してしまうのが私のひとつの手法なんです。このときもそうやって取り組みました。

商社では、どんなお仕事をされましたか?

本社勤務と4度の出向・・・約20年間伊藤忠に勤務しました。長い期間、転職したいと思うこともなく伊藤忠に留まっていられたのは、この出向のお蔭かもしれませんね。出向によって担当する業務や、環境がフレキシブルに変わり、色々な経験ができたので。

商社で経験した業務で代表的なものは、例えばアメリカの自動車Big3であるGM、フォード、クライスラー向けのロボット輸出やその海外営業です。その後は新しいソフトウェアの独占販売権を取得して輸入し、国内販売を行いました。あとはアジアを中心としたM&Aも多く手掛けましたよ。そして、2ヶ所の駐在です。
経験した業務は多岐にわたっているから、この場では簡単には説明できないな(笑)。ただ、伊藤忠で大変貴重な経験をする機会をいただいたことに感謝しています。

三愛電子工業に転職したきっかけを教えてください。

大手企業の駐在員って、なにかと優遇されてるなぁ、と思うんです。会社の看板でできる仕事が結構あるように思うし、現地の人たちからは、ちやほやされるし。その駐在員の話す現地の言葉(英語)が多少下手であっても、いい商品であれば買ってもらえるのです。これは「大手企業の駐在員」という看板による特別扱いですよね。

ある時、ふと疑問がわきました。
「私の仕事が成功しているのは本当の自分の実力によるものなのか、それとも会社のブランド力のお蔭なのか?」。
そんな折、タイミングを同じくして三愛電子工業を創業した父が大病を患ってしまって。次期経営者は決まっていないという危機的状況を迎えていました。会社の看板によって仕事をすることには疑問がわいていましたし、年齢的にも転職をするならこれが最後のチャンスになるだろうと思いました。そこで中小企業への転職を決心したのです。
「大企業は組織であり、一人が辞めても代わりはいる・・・ちょっと寂しいけれど。私の後任が見つかって引継ぎを終えたら、思い切って伊藤忠という看板を外し、父がゼロから築き上げた会社で勝負してみよう」と。

三愛電子工業の社長として心がけていることは、ありますか?

創業39年の伝統を大切に守りつつ、気持ちはベンチャー企業の経営者のつもりでいます。常に何が開拓できるかを考えているからです。
心がけているのは、具体的には2つ。
まずお客様に対して、既存取引の質を向上しつつ、新たな開発、製品をご提供していくことです。当社は現在、タクシー無線や鉄道会社の放送アンプで高いシェアを誇っています。何しろお客様に恵まれているんです。そこで一例ですが、鉄道会社に対してAED(自動体外式除細動器)などといった、別の製品やサービスの営業も積極的に行っていこうと。ほら、電車のホームにもAEDを設置していく、ってニュースで流れていたでしょ?
ふたつ目に従業員に対してです。今、私の目標は「中からも外からも良い会社といわれるようにしたい」ということです。良い会社って何だと思いますか?私は、単に儲かっていれば良い会社である、とは思いません。そこで働く人達が仕事をしていて楽しいと思える会社が、良い会社ではないでしょうか。

仕事を楽しむ秘訣を教えてください。

私は、「忙しい」と「疲れた」という言葉が嫌いなんです。だって「忙しい」は心をなくすって書くでしょ?こんな言葉を使っていたら英気が逃げていきますよ。それに時間は作ろうとすれば作れるものなんだから、例えば、休む時間も作れば良いんです。
私の仕事のテーマは「自己実現」。
何についてもあまり難しく考えずに、端的に自分のやりたいことは何か?を考えるのです。そして自分を主人公にしたシナリオを作ってしまう。実際の展開が狙った通りに進めば、こんな楽しいドラマはありませんよ。

学生と20代の社会人へメッセージをお願いします。

学生は、どの分野でもいいから、基礎がしっかりとした実力を身につけてほしいと思います。
大企業と中小企業、両方の経験を持つ立場からアドバイスすると、大企業に就職すれば、その企業のブランド力を生かして、自分の夢を実現できるかもしれません。ただ成功したとしても、それが自分の実力だけによるものだと錯覚したら危険だと思うのです。知名度のない中小企業に入社すれば、限られた市場における実力本位の厳しい世界が待っています。しかしその反面、組織にとらわれず、自分そのもので勝負することができますね。自分の実力で勝ち取る勝利は、何ものにも代えられないですね。

私は「働く」という言葉より「仕事をする」という言葉を使うようにしています。「働く」という言葉からは、仕事を義務として捉えている印象を受けますが、「仕事をする」という言葉からは、自発的に仕事に臨むニュアンスが感じられるからです。
また社会人になったら素直さを忘れないでほしいですね。自分を少しでも大きく見せようとすると無理がいきますから。肩肘張らず等身大の自分でいてほしいですね。

大切なのは、まわりに対してだけではなく、自分に対しても素直になるということです。なぜなら、素直であるか否かによって、吸収が違ってくるからです。具体的に言いますと、素直な人は物事の本来の姿をみることができる、例えば「法律や世の中のルールはなぜそのように決められているのか」を、その根本や背景を考えた上で理解して受け止めることができますよね。素直でない人は、物事のうわべだけをみてしまい、これが間違いをおこすもとになりますから。
我慢しなければならないこともあるけれど、「素直さ」とは社会人として自分を磨く一つの重要な要素だと思いますね。「自分の色」を外さずに、自分に素直でいかに行動するかによって、日々の行動が変わってきます。自信がなさそうに見えても、自分の作ったシナリオを一歩一歩前に進んでいる若者を見ると、思わずエールを送りたくなりますよ。